「EDM」という言葉が生まれたのは2010年代のアメリカですが、その音の血統は1970年代のディスコ反動から始まっています。起源を知ると、今のジャンル選びと音作りの判断基準が変わります。
「EDM」を検索すると、AviciiやDavid Guettaのようなフェスの主役が真っ先に出てきます。でも、その音の作り方——四つ打ちのキック、シンセのうねり、ドロップの快感構造——は、彼らが発明したものではありません。もっと前、1970年代のアメリカの地下から始まっています。
起源を知らずにジャンルを扱うと、表面的な音真似で終わります。なぜそのキックの音なのか、なぜその展開なのか——その理由は、誕生の経緯そのものに刻まれているからです。
この記事でわかること
- ディスコの終焉が、なぜ地下のダンスミュージックを生んだのか
- シカゴハウスとデトロイト・テクノ、2つの起点の違い
- 「失敗作」だった機材がジャンルの音そのものになった経緯
- 「EDM」という言葉がジャンル名ではなく商業マーケティング用語である理由
- 起源を知ることが、今のあなたの音作りの判断基準にどう活きるか
ディスコの終焉が、地下のダンスミュージックを生んだ
1979年7月12日、シカゴのコミスキー・パークで「ディスコ・デモリション・ナイト」というイベントが開催されました。野球の試合の合間にディスコレコードを大量に爆破するという企画で、会場は暴徒化し、試合は没収試合になっています。
表向きは「ディスコ疲れ」のイベントでしたが、実際にはディスコを支えていた黒人・ゲイ・ラテン系のコミュニティに対する反発という側面が強かったと、多くの音楽史研究で指摘されています。メインストリームから追い出されたダンスミュージックは、この後クラブという「地下」に潜っていきました。
ここが起点です。EDMは表舞台のスターから始まったのではなく、居場所を追われたコミュニティが自分たちのために鳴らした音として始まりました。
シカゴハウスの誕生——クラブの名前がジャンル名になった
1980年代初頭、シカゴのクラブ「The Warehouse」で、DJのフランキー・ナックルズがディスコのレコードにドラムマシンのビートを重ねて再構築するプレイを始めます。常連客がレコード店で「Warehouseでかかってるような曲」を「house music」と呼んだのが、ジャンル名の由来だと広く語り継がれています。
ハウスの核は「四つ打ち(1拍ごとにキックを置くリズム)」です。この単純な反復が、踊り続けるための土台になりました。複雑さより反復、個人技より場の一体感——ここで生まれた価値観は、今のダンスミュージック全体の骨格になっています。
デトロイト・テクノ——工業都市が見た「未来」の音
同じ頃、車で2時間のデトロイトでは、別の起点が動いていました。「ベルヴィル・スリー」と呼ばれるジュアン・アトキンス、デリック・メイ、ケヴィン・サンダーソンの3人が、ドイツのバンドKraftwerk(クラフトワーク)の機械的なサウンドに強い影響を受け、独自の電子音楽を作り始めます。
デトロイトは自動車産業の街です。工場の自動化で仕事を失う人が増える一方、彼らはその「機械化された未来」を絶望ではなく美意識として捉え直しました。無機質なシンセの音を、希望の言語に変換したんです。この視点の転換が「テクノ」というジャンルの核になっています。
ハウスが「反復による一体感」なら、テクノは「機械の美しさそのもの」。この2つの起点の違いは、今もジャンルを聴き分ける判断基準として使えます。
「失敗作」の機材が、ジャンルの音そのものになった
ここで欠かせないのが機材の話です。Roland社が1980年に発売したドラムマシン「TR-808」は、本来リアルなドラム演奏を再現するための製品でした。ですが当時の技術では生ドラムに聞こえず、商業的には不振で早々に生産終了しています。
ところが売れ残って安くなった中古のTR-808や、1981年発売のベースシンセ「TB-303」が、予算の乏しいシカゴ・デトロイトのDJやプロデューサーの手に渡りました。「リアルに聞こえない」という欠点だった機械的な音色そのものが、ハウスやテクノの「らしさ」として定着していったんです。
特にTB-303を偶然いじり倒して生まれた「ぐにゃっと歪む」音色は、後に「アシッドハウス」という新しいサブジャンルの名前の由来になりました。狙って作られた音ではなく、失敗作を使い倒した末に見つかった音——この経緯自体が、機材との向き合い方のヒントになります。
UKアシッドハウスと「セカンド・サマー・オブ・ラブ」
1987年前後、イギリスのDJたちがスペイン・イビサ島のクラブ文化に触れ、シカゴハウス・デトロイトテクノをロンドンやマンチェスターに持ち帰ります。1988年、イギリス各地の倉庫や野外で無許可のレイブパーティーが爆発的に増え、この時期は「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と呼ばれています。
ここでアメリカの地下音楽が、イギリスを経由して世界的なクラブカルチャーへと規模を広げました。今のフェス文化・DJカルチャーの土台は、この1988年前後のUKレイブシーンで形作られたと言われています。
「EDM」という言葉はいつ生まれたのか
ここまで見てきた「house」「techno」という呼び名に対して、「EDM(Electronic Dance Music)」という言葉自体は、2010年代にアメリカの音楽メディアや業界が使い始めた比較的新しい呼称です。もともとヨーロッパでは電子ダンスミュージック全体を指す一般名詞として使われていましたが、アメリカでは特にAvicii・David Guetta・Skrillexらが牽引した2010年代の商業フェス文化(Ultra、EDCなど)を指すマーケティング用語として定着しました。
つまり「EDM」はジャンル名というより、1970〜80年代に地下で生まれたハウス・テクノの血統を、2010年代のアメリカが商業的に再パッケージした呼び名です。この記事群では、2010年代の商業スター・技法は別記事(ダンスミュージックの歴史|EDM・ハウス・テクノが生まれた流れ)で扱っています。この記事はその手前、血統そのものの話です。
起源を知ることが、今のあなたの制作にどう活きるか
歴史を知っているだけでは曲は完成しません。ここからはレベル別に、起源の知識を実際の制作判断に落とし込みます。
①DTM初心者:ハウスとテクノを聴き比べて「違い」を耳で覚える
まずは元祖ハウス(Frankie Knuckles周辺)とデトロイトテクノ(Juan Atkins周辺)の代表曲をそれぞれ数曲、続けて聴いてください。同じ四つ打ちでも、ハウスは反復と一体感、テクノは音色の質感で聴かせているという違いが体感できます。自分がどちらの方向性に惹かれるかを言葉にできると、その後の音作りの軸が定まります。
②DTM脱初心者:TR-808/909系のキックとハットを意図的に選ぶ
手持ちのプラグインやサンプルパックの中から、TR-808/909系(もしくはそれをモデリングした音源)のキック・ハイハットを探して1曲に使ってみてください。「なんとなくカッコいいから」ではなく、「この機材がジャンルの音を作った」という文脈を知った上で選ぶと、音選びの判断基準が変わります。
③DTM中級者:自分のサウンドを「起源のどこに接続するか」で言語化する
自分の作る曲が、ハウスの「反復と一体感」寄りなのか、テクノの「機械美」寄りなのか、あるいは意図的にその両方を混ぜているのか。ジャンルの系譜の中に自分の立ち位置を言語化できると、リファレンス曲選びやミックスの方向性で迷わなくなります。制作の詰まりポイントが「技術」ではなく「方向性の未定義」にあるケースは、実は少なくありません。
ここまで読んで「自分の曲の方向性がどこにも定まっていない」と感じた方は、制作の詰まりポイントを一緒に特定できます。
→ 詰まりポイントを特定する
よくある質問
Q. ハウスとテクノ、結局どちらが「EDM」なんですか?
どちらもEDMという大きな枠に含まれます。「EDM」はジャンル名というより、2010年代アメリカで定着した商業的な総称です。ハウス・テクノはそれぞれ独立した起源とスタイルを持つ、より具体的なジャンル名だと考えてください。
Q. 起源を知らなくても曲は作れますよね?
作れます。ただ、起源を知らないまま音を選ぶと、なぜその音が「らしく」聞こえるのかが分からず、応用が効きません。TR-808のキックがなぜこのジャンルに合うのかを知っていれば、別のジャンルで同じ音を使うべきか、避けるべきかの判断が速くなります。
Q. 相談では、具体的に何を相談できますか?
ジャンル選びや音作りの方向性が定まらず制作が止まっている場合、その原因を一緒に特定します。DAWの画面を共有しながら、今のプロジェクトのどこで判断が止まっているかを具体的に見ていきます。
まとめ——起源を知ることは、音の選択に理由を持つこと
この記事で伝えたことを3点に集約します。
- ディスコの終焉と居場所を追われたコミュニティの反発から、ハウス・テクノという地下のダンスミュージックが生まれた。
- 「失敗作」だったTR-808やTB-303の機械的な音が、そのままジャンルの個性として定着した。
- 「EDM」は2010年代アメリカが定着させた商業的な総称であり、起源そのものはその30年以上前から始まっている。
実際に音を選ぶとき、その音がどこから来たのかを知っているかどうかで、判断の速さと確信の強さは変わります。私自身、機材や音色の由来を調べるようになってから、リファレンス曲を分析する視点が変わりました。
遠い時代に生まれた音の系譜が、あなたが作る一曲にも流れ込みますように。
止まっている原因を、DAWの画面を見ながら一緒に特定します。毎月限定数のみ。
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