EQとは、音を高さごとに分けて、その一部だけ音量を増減させる装置です。複数の音が同じ高さに集まると片方が聞こえなくなる現象が起き、これはフェーダーでは解けません。300Hzを-3dB下げるような操作で、高さの軸に場所を空けるための道具です。
この記事を読む前に
この記事では「トラック」「フェーダー」「インサート」「プラグイン」という言葉を使います。意味がわからない場合は先に音がスピーカーから出るまで|DTMの信号の通り道を読んでください。
また「ミックスは音を良くする工程ではない」という前提の上に書いています。そこが曖昧な方はミックスとは何をする工程かを先に読むと、この記事の意味が変わります。
音量をどう動かしても解けない詰まりがある
ボーカルとギターを重ねたとき、こうなったことがあるはずです。
・ボーカルが聞こえないので、ボーカルを上げる
・今度はうるさいだけで、言葉は前より聞き取りにくい
・ギターを下げると聞こえるようになるが、ギターがいなくなって曲が痩せる
音量をどちらに動かしても、どちらかが犠牲になる。この行き止まりは、フェーダーの操作が下手だから起きているのではありません。音量という1本の軸しか使っていないから、原理的に解けないだけです。
私も最初のうちは、ここで止まっていました。「もっと丁寧にバランスを取れば解決する」と思い込んでいたので、何時間フェーダーを触っても出口がなかった。抜けたのは、問題が音量ではなく音の高さの取り合いだと分かってからです。
EQは「音を整える道具」ではない

EQとは何か
EQとは、1つの音を高さごとに分けて、その一部だけを増減させる装置です。フェーダーが音全体をまとめて上下させるのに対し、EQは「低いところはそのまま、300Hzのあたりだけ下げる」という部分的な操作ができます。
多くの解説はここで止まります。問題はその次です。なぜ、部分的に音量を変える必要が出てくるのか。
1階の目的は「音を整える」です。2階の目的はこうです。
人間の耳は、音の高さごとに別々の場所で音を受け取っている。
同じ高さの音が2つ同時に来ると、その場所は1つしかないので、強いほうが弱いほうを覆い隠す。
これは音量では解けない。高さの軸で場所を空けるしかない。
その「場所を空ける」ためだけに存在するのがEQ。
耳の奥には蝸牛(かぎゅう)という渦巻き状の器官があり、その内側の膜は、入り口側が高い音、奥側が低い音に反応します。音の高さは、耳の中では物理的な「場所」に変換されているということです。ここが、EQという道具が存在する理由のすべてです。
マスキングとは何か
マスキングとは、ある音が、それと近い高さの別の音を聞こえなくしてしまう現象のことです。日本語では「聴覚マスキング」と呼ばれます。
電車がホームに入ってくると、隣の人の声が聞こえなくなります。声の音量は下がっていません。耳の同じ場所を、より強い音が先に占領しただけです。ボーカルとギターで起きているのは、これとまったく同じ現象です。
マスキングには方向の偏りがあります。低い音のほうが、高い音を覆い隠しやすい。ベースやキックを大きくしたときにボーカルの明瞭さが落ちるのは、この非対称のためです。逆は起きにくいので、低い側を削るのが定石になります。
ちなみに、MP3やAACといった音楽ファイルの圧縮も、この現象を使っています。どうせマスキングされて聞こえない成分は、記録しない。あなたが普段聴いている音楽は、耳の仕組みを逆算して間引かれたデータです。マスキングは理論上の話ではなく、産業がそれを前提に設計されている実体のある現象です。
イコライザーとは何か
イコライザーとは、EQの正式名称です。EQはその略称で、同じものを指します。DAWのプラグイン一覧では「EQ」、教則本では「イコライザー」と書かれることが多いですが、区別する必要はありません。
ただし、この名前は覚えておく価値があります。equalize は「等しくする」という意味です。元々この装置は、増やすためではなく、崩れたものを元に戻すために作られた——その事情が名前に残っています。次の章がその話です。
なぜEQが生まれたのか(歴史)

EQは音楽のために生まれた道具ではありません。最初は電話の設備でした。
長い電話線に音声を通すと、高い音のほうが先に減っていきます。遠くの相手の声がこもって聞き取れない。この減った分を補正して周波数特性を平らに戻す回路が作られ、それが equalizer と呼ばれました。「良い音にする装置」ではなく「元に戻す装置」として世に出たのがEQです。
次に必要になったのはレコードです。レコードは溝の振動で音を記録しますが、低い音をそのまま刻むと溝の幅が大きくなりすぎ、隣の溝とぶつかって針が飛びます。そこで記録するときに低音を減らして高音を上げ、再生するときに逆向きの補正で戻すという規格が作られました。RIAAカーブと呼ばれるものです。
つまりEQは、生まれてから2回とも「物理的な制約で崩れた形を、元に戻す」ために使われています。1950年代初頭にPultec EQP-1Aのようなスタジオ用の機材が登場し、音作りに使われ始めますが、設計思想の出発点はここです。
「ブーストよりカットが基本」と言われる理由は、精神論ではありません。この道具は元々、余計なものを引いて形を戻すために設計されているからです。足す使い方は、後から追加された応用のほうです。
「音の高さ」という座標軸を先に持つ

EQの画面は、この座標軸そのものです。軸が読めないまま操作しても、何をしたのか自分で分かりません。ここだけは先に押さえます。
周波数とHzとは何か
周波数とは、音の高さを数字で表したものです。空気が1秒間に何回振動しているかを数えた値で、単位が Hz(ヘルツ) です。1秒間に100回振動する音が100Hz、1秒間に8000回振動する音が8000Hzです。
数字が大きいほど高い音になります。人間が聞き取れるのはおよそ20Hzから20000Hzまでで、年齢とともに上限が下がります。ピアノのいちばん低い鍵盤が約27Hz、いちばん高い鍵盤が約4186Hzです。
ここで1つだけ、初心者が必ずつまずく点があります。EQの画面の横軸は、等間隔ではありません。100Hzから200Hzまでの幅と、1000Hzから2000Hzまでの幅が、画面上では同じ長さで描かれます。どちらも「2倍」であり、人間の耳は倍率で高さを感じるからです。100Hzの隣にある200Hzは1オクターブ上、1000Hzの隣にある2000Hzも1オクターブ上。数字の差ではなく倍率で見るのが正しい読み方です。
帯域とは何か
帯域とは、周波数の「ある範囲のかたまり」を指す言葉です。「低域」「中域」「高域」といった大まかな呼び方も、「300Hz付近の帯域」といった狭い指定も、どちらも帯域です。
解説記事で「帯域が被っている」と書かれていたら、2つの楽器が、耳の中の同じ場所を取り合っているという意味です。ボーカルとギターがぶつかるのは、どちらも250Hz付近と3000Hz付近に成分が集中しているためです。
倍音とは何か
倍音とは、鳴らした音の高さの整数倍で、同時に鳴っている音のことです。ギターで220Hzの音を弾くと、440Hz、660Hz、880Hz……も一緒に鳴っています。
これがEQの理解に効いてきます。1つの楽器は、1つの高さの場所にいるのではありません。低い音を1つ弾いただけで、その楽器は高いところまで場所を取っています。ベースが低音の担当なのに高域を削ると急に存在感が消えるのは、倍音が削られるからです。
楽器の音色の違いも、倍音の配分で決まっています。同じ高さの音でも、ピアノとバイオリンが違って聞こえるのはそのためです。EQで音色が変わるのは、この倍音の配分を書き換えているからです。
「こもり」とは何か
こもりとは、低めの帯域が多すぎて、音の輪郭がはっきりしない状態のことです。布をかぶせたような、隣の部屋から聞こえるような音を指します。
原因の多くは250Hz付近の量です。この帯域は音の「厚み」を作る場所でもあるため、多すぎると厚みが濁りに変わります。こもりは高域が足りないのではなく、低めが多すぎる状態であることがほとんどです。高域を上げて解決しようとすると、うるさいのにこもったままという音になります。
画面のどこにあり、どのつまみが何をするのか

EQはトラックのインサート欄に挿します。ミキサー画面で、そのトラックの列にある「Insert」「FX」と書かれた枠をクリックすると、使えるプラグインの一覧が出ます。標準で付いているものは次のとおりです。
・Logic Pro:Channel EQ
・Cubase:Frequency
・Studio One:Pro EQ
・Ableton Live:EQ Eight
・FL Studio:Parametric EQ 2
買い足す必要はありません。標準EQで足りないと感じる段階は、まだ先です。
開くと、横長のグラフが出ます。横軸が音の高さ(左が低い、右が高い)、縦軸が増減(上がブースト、下がカット)。グラフの中で動く曲線が、今その音に対して何をしているかを表しています。
ピーキングとは何か
ピーキングとは、指定した高さを中心に、山型(または谷型)で増減させるカーブのことです。ベル型とも呼ばれます。EQで最もよく使う形です。
「300Hzを削る」という操作は、300Hzを中心にした谷を作ることです。300Hzだけがピンポイントで消えるのではなく、その周りもなだらかに一緒に減ります。どれくらい周りを巻き込むかを決めるのが、次に出てくるQ値です。
シェルビングとは何か
シェルビングとは、指定した高さより上(または下)を、まとめて持ち上げる・下げるカーブのことです。棚(シェルフ)のような形になるのでこう呼ばれます。
ピーキングが「一点を狙う」のに対し、シェルビングは「そこから先を全部」動かします。曲全体を少し明るくしたいときは8000Hzより上をシェルビングで+1.5dB、といった使い方をします。狙って削るのがピーキング、雰囲気を変えるのがシェルビングと覚えると迷いません。
ハイパス(ローカット)とハイカット(ローパス)
ハイパスとは、指定した高さより低い成分を、崖のように急激に落とすカーブのことです。ローカットは、これとまったく同じものの別名です。
なぜ名前が2つあるのか。「高いほうを通す(ハイパス)」と「低いほうを切る(ローカット)」は、同じ操作を反対側から見た言い方だからです。残る側から名づけたか、消える側から名づけたかの違いしかありません。初心者が混乱する筆頭ですが、迷ったら「低いほうが消える」と覚えれば足ります。
ハイカットとローパスは、その逆です。指定した高さより高い成分を落とします。こちらも2つの名前は同じものを指します。
かつては私も、この2つが別々の機能だと思って、同じトラックにハイパスとローカットを両方挿していました。名前が反対なので、別の効果があるはずだと信じていたからです。実際には同じ処理を2回かけていただけでした。
ハイパスは、EQの中で最初に覚える価値がある機能です。ボーカルやギターに録音されている80Hzより下の成分は、たいてい音楽的な情報を持たないノイズ(空調音、机の振動、マイクスタンドに伝わる足音)です。ここを落とすだけで、他の音が入る場所が空きます。
Q値とは何か
Q値とは、山や谷の幅を表す数字です。DAWによっては「Q」「Width」「Bandwidth」と表示されます。
ここが最大の落とし穴です。Q値は、数字が大きいほど幅が狭くなります。大きいのに狭い。日本語の感覚と逆です。
理由は計算式にあります。Q値は「中心の周波数 ÷ 影響する幅」で決まります。幅が分母にあるので、幅が狭いほど答えが大きくなる。Q=10 は狭く鋭い谷、Q=0.7 は広くなだらかな谷です。普段使いはQ=1.0前後、耳障りな一点だけを潰すときにQ=8以上を使います。
私は当時、数字が大きいほど広く効くのだと思い込んで操作していました。Qを上げるほど変化が小さくなるので、「効いていない」と判断してGainのほうをどんどん下げる。結果、狭い谷を深く掘った不自然な音になっていました。変化が小さいと感じたら、Gainではなく先にQを下げるのが正解です。
今は無視していいもの
Analyzer(波形表示)の細かい設定、Linear Phase(リニアフェーズ)モード、Mid/Side切り替え、各バンドのSolo機能。これらは後から意味が分かります。触らなくても困りません。
触ってはいけないもの
Output Gain(出力音量)を最初から上げること。EQで変わった音を「良くなった」と錯覚する原因が、この音量差です。判断が全部狂います。
「300Hzをカットする」を手の動きまで分解する
解説記事に出てくる動詞を、画面上の操作に翻訳します。ここまで書かれていないと、初心者にとっては何も言われていないのと同じです。
「300Hzを-3dBカットする」=
1. ミキサー画面で、そのトラックのインサート欄をクリックしてEQを挿す
2. 開いたグラフの下側に、20 / 100 / 1k / 10k といった数字が並んでいる。これが横軸
3. 「300」と書かれた位置の、まん中の高さ(増減0のライン)をダブルクリックして点を作る
4. その点をマウスで下にドラッグする。画面のどこかに Gain -3.0 dB と数字が出るので、-3.0 になったところで指を離す
5. 点の上でマウスホイールを回すとQ値が変わる。1.0前後にしておく
6. プラグイン名の左にある電源マークをクリックし、切ったときと入れたときを聴き比べる
「ボーカルの被りを取る」=
ボーカルではなく、ボーカルと同時に鳴っているほうのトラックにEQを挿す。300Hz付近に谷を1つ作り、-4.0 まで下げた状態で再生する。ボーカルが前に出てきたらそこが犯人。出てこなければ谷を左右にドラッグして、変化する場所を探す
「不要な低音を切る」=
EQの左端にある、坂道のようなアイコン(ハイパス)をクリックして有効にする。有効にすると左端に点が出るので、それを右へドラッグして 80Hz まで動かす。ベースとキック以外の全トラックで、これをやってよい
その操作で、構造的に何が起きているのか
300Hzを-3dB下げたとき、起きていることは3つあります。
1. その楽器の300Hz成分が減る。音は薄くなります。単体で聴けば、たいてい前より悪い音です。
2. 耳の中の300Hzの場所が空く。同じ場所を使っていた別の楽器が、そこに入れるようになります。
3. 合計の音量がわずかに下がる。マスタートラックに余裕が生まれます。
ここが重要な分岐点です。EQは、削ったトラックのためにやる作業ではありません。他のトラックのためにやる作業です。だから、ソロで聴いて良い音を作ろうとすると必ず失敗します。ソロで痩せて聞こえる音が、全部鳴らすと正解であることは日常的に起きます。
もう1つ、目に見えない副作用があります。EQで山や谷を作ると、その付近の音はわずかに時間がずれます(位相の変化)。1箇所なら聞き取れませんが、10箇所に大きな山谷を作ると、音の芯がぼやけ始めます。「EQをたくさん挿したら輪郭が消えた」という現象の正体はこれです。
同じ言葉なのに数が合わない理由(用語衝突表)
EQ周りは、同じ単位・同じ言葉が別の意味で使われる場所が集中しています。ここで潰しておきます。
| 言葉 | 場面A | 場面B | なぜ噛み合わないか |
|---|---|---|---|
| dB | EQの -3dB =その帯域だけの増減 | フェーダーの -3dB =音全体の増減 | 同じ数字でも、片方は一部、片方は全部。「-3dBしたのに変わらない」はここで起きる |
| Hz | 300Hz =音の高さ | 48000Hz =サンプリングレート(記録の細かさ) | どちらも1秒あたりの回数だが、前者は音の振動、後者は記録の刻み。並べて比較する意味がない |
| Q値 | Q=10 =狭い | Q=0.7 =広い | 数字が大きいほど狭い。中心周波数÷幅なので、幅が分母にあるため逆転する |
| ハイパス/ローカット | 残る側から見た名前 | 消える側から見た名前 | 正反対の言葉なのに同じ操作。DAWによって表記が違うだけ |
| 高域を上げる | 高域を+3dBブーストする | 低域を-3dBカットする | 聞こえ方はほぼ同じ。耳は絶対量ではなく比率で判断するので、どちらでも「明るくなった」と感じる |
| ピーク | ピーキング=カーブの形 | ピークメーター=最大瞬間音量 | 片方は形の名前、片方は値の名前。「ピークが高い」がどちらの話かで対処が真逆になる |
この比喩は、ここから先は嘘になる
「EQは音の色鉛筆」——ここまでは合っている:足りない色(帯域)が分かっていれば、そこを狙って足せる。
ここから違う:EQは、元の音に入っていない成分を作り出せません。8000Hzが録れていないマイクの音を8000Hzブーストしても、出てくるのはノイズだけです。EQができるのは、すでにそこにあるものの量を変えることだけ。
より正確な比喩は「音の高さごとに並んだ、たくさんのフェーダー」です。フェーダーは、何も入っていないトラックを上げても無音のままです。EQもそれと同じです。この比喩を信じたまま進むと、無い成分を探して延々とブーストし続けることになります。
やりすぎると出てくる新しい課題

EQが効くと分かると、次は全トラックに挿す段階が来ます。そこで起きることを先に書いておきます。
・どのトラックも削られて、曲全体が細く弱くなる
・山谷が増えて位相がずれ、音の芯がぼやける
・削った分だけ音量が下がるので、最後に無理な音圧上げが必要になる
・「良い音」を追ってEQを触り続け、曲そのものが1ヶ月進まない
こうなったら、あなたはやりすぎです(自己判定基準)
1. バイパスしたほうが良く聞こえる プラグインの電源を切って聴き、そちらのほうが良ければ、そのEQは仕事をしていません。設定を戻すのではなく、外してください。
2. 1トラックに山と谷が6個以上ある EQで解ける問題を超えています。音源の選び直しか、アレンジで音を減らすほうが早い段階です。
3. ブーストの合計が+6dBを超えている 足りないものを足そうとしています。足りないのではなく、他が邪魔をしている可能性を先に確認してください。
4. ソロで聴いて音作りをしている EQは他のトラックのための作業です。判断は必ず全部鳴らした状態で行います。
ここまで読んで「自分の曲が止まっているのは、EQの問題なのか、その手前の音選びの問題なのか分からない」と感じた方へ。その切り分けは30分あればこちらで特定できます。
似た結果になる道具と、何が違うのか
「ボーカルを前に出す」という同じ結果に、複数の道具が使えます。違いは、何を変えているかです。
| 道具 | 動かしている軸 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| フェーダー | 音量(全部まとめて) | まずこれで解けるか試す。解けるなら他は不要 |
| EQ | 高さ(場所の取り合い) | 音量では解けない、被りが原因のとき |
| コンプ | 時間(大小の差を縮める) | 聞こえたり聞こえなかったり、ムラがあるとき |
| パン | 左右の位置 | 高さも音量も似ている2つを分けたいとき |
順番にも理由があります。EQは、コンプより先に挿すのが基本です。コンプは入ってきた音の大きさに反応して動くため、不要な低音が残ったままだとコンプがその低音に反応してしまい、狙った動きになりません。先に要らないものを取り除いてから、量を揃えます。
今日、実際に手を動かす
①DTM初心者:ハイパスだけを全トラックに入れる
ベースとキック以外の全トラックにEQを挿し、ハイパスだけを有効にして80Hzに合わせます。他のつまみは一切触りません。それだけで曲の見通しが変わるはずです。EQで最初に覚えるべきなのは、削り方の技術ではなく、要らないものを外す習慣です。
②DTM脱初心者:耳障りな一点を探して潰す
1つのトラックにEQを挿し、Q=8の鋭い山を+10dBブーストします。その山を横軸に沿ってゆっくり左右へドラッグしてください。聴いていて不快に感じる場所が必ず1つ見つかります。見つけたら、そのままブーストをカットに反転させ、-4.0まで下げてQを2.0に戻します。これがEQの基本動作です。
③DTM中級者:2つの楽器で場所を分け合う
ぶつかっている2つのトラックを選び、片方で250Hzを-4.0下げたら、もう片方では250Hzを+2.0上げます。逆に3000Hzでは、上げ下げを入れ替えます。両方を良くしようとせず、帯域ごとに主役を決めて交換する。この考え方に切り替わると、被りは設計で解決できる問題になります。
よくある質問
Q. どの周波数を触ればいいのか、覚える必要がありますか
A. 必要ありません。周波数の対応表を暗記しても、曲ごとに正解が違うので使えません。それより、②の「鋭い山を作って動かし、嫌な場所を探す」を毎回やるほうが確実です。数字は覚えるものではなく、探して見つけるものです。
Q. 有料のEQプラグインを買うと音は良くなりますか
A. 削る・足すという動作自体は、標準EQと有料EQでほとんど差がありません。有料品の価値は、画面の見やすさや作業速度、味付けの個性にあります。どこを削るか判断できない段階で買い替えても、判断は速くなりません。先に②の探し方を身につけたほうが変化は大きいです。
Q. EQで音が良くならないのですが、何が間違っていますか
A. EQは、そのトラック単体を良くする道具ではありません。他のトラックが入る場所を空ける道具です。ソロで聴いて良し悪しを判断している場合、目的と手段がずれています。全部鳴らした状態で、削ったトラックではなく、別のトラックが聞こえやすくなったかを確認してください。
結びと祈り
EQが分からないと感じていた人の多くは、実は操作ではなく、座標軸そのものを渡されていませんでした。音に高さという軸があり、その軸の上で場所の取り合いが起きている。それさえ分かってしまえば、EQは「場所を空ける道具」でしかありません。
削る勇気が出ないのは、その音を大事にしているからです。それは間違いではありません。ただ、あなたが本当に届けたい一音を届けるためには、その隣にいる音に少し場所を譲ってもらう必要があります。削るのは、捨てることではなく、譲ることです。
あなたが聴かせたかった一音が、ちゃんとその人の耳に届く場所を持てますように。
制作の『詰まりポイント』を特定する30分(無料)/DAWの画面を共有しながら、止まっている原因を一緒に探します。毎月限定数のみ選考制。今日の次の一手だけを明確にします。
この記事を前提にしている記事
・EQをかけすぎて音が壊れる人へ
・キックとベースの「役割と帯域」
・コンプがわからない人へ|まずいじる順番
・独学で限界を感じたあなたへ
・プラグインを買い足しても曲が良くならない理由
最終更新:2026年7月26日
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